透析支援システム|電子カルテ

貧血指標を可視化するデータ管理とその活用

1. 腎性貧血治療薬の歴史

EPOのスタートは1977年にさかのぼり、尿中に造血因子があると考えた熊本大学の宮家らにより再生不良性貧血患者の2.5トンもの尿から10 mgのEPOを精製することに成功したことに始まります。その後EPO遺伝子のクローニングに成功し、人工的に作成されるようになったEPOは日本においても、今からおよそ30年前の1990年に保険適応となり透析患者の貧血は劇的に改善しました。

2. 腎性貧血治療の現状

 貧血は慢性腎不全に伴う最も代表的な病態の1つであり、目標Hb値の維持は透析治療を行う上で不可欠である。1990年r-HuEPOの臨床使用開始以来、貧血は劇的に改善され、その後同機序からなる複数のESA製剤に加えて近年は作用機序の異なるHIF-PH阻害薬が登場したことは記憶に新しいのではないでしょうか
腎性貧血治療薬の選択肢が増えることで、様々な要因を孕む“腎性貧血”のさらなる改善が期待される一方で、医療者が考慮すべき情報は増し、そのような中で患者個々に合ったより精度の高い貧血評価手法を構築していかねばなりません。

3. 情報(データ)リテラシー

情報リテラシーという言葉を聞いたことがあるでしょうか?「リテラシー」とは、もともと「読み書きの能力」を意味する言葉ですが、現在の使われ方としては「ある分野に関する知識や能力を活用する力」を指すことがほとんどで、ビジネスの場においては「情報を適切に理解、解釈して活用すること」というニュアンスで使われます。つまり「情報リテラシー」とは、「情報が必要とされるときに、基になる情報を効果的かつ効率的に探し出して、それを精査し活用する能力」のことを言うのであって、たとえば目の前にある情報を点ではなく線や面で見ることは、基本的なリテラシーの1つであると言えます。

4. 電子カルテシステム

こちらは厚生労働省が3年毎に調査している電子カルテシステムの普及状況を示したグラフです。普及率は思ったより伸び悩んでいるそうですが、それでも電子カルテシステムは着実に普及し、今後診療によって蓄積される情報は日々膨大になっていくものと予想されます。

電子カルテシステムは本来情報を一元管理しており、それらを効率的に閲覧する仕組みが備わっていますが、情報をより活用するうえで課題もあると感じています。
1つは“データ閲覧の快適さ”です。電子カルテの起動にはセキュリティ上、ユーザ名とパスワードの入力が必要で見たい情報を見るには複数のページ切り替えが必要とされます。また関連する情報は複数ページに分散していることが多く、表示される内容をカスタマイズできるとしてもそれは限定的です。
もう1つの課題はデータの活用についてです。そもそも必要なデータの抽出ができない場合がほとんどで、仮にメーカーに協力を仰いだとしても時間を要し、タイムリーな情報を取得、活用することは困難であると言わざるを得ません。

そこで当グループ病院は、電子カルテシステムとは別に稼働する透析支援システムへデータベースをリンクさせこれらの課題の解決に取り組んでいます。
データ閲覧性については、できるだけ簡単に素早く、見やすくなるように新たにシステム構築しました。
データの活用については汎用ソフトによる電子カルテデータへのアクセスを可能にし、適宜データリンクすることで必要な時に必要な情報を取得できる体制を構築しています。

5. データ閲覧性

こちらが透析支援システム画面です。
電子カルテからは独立したシステムですのでログイン不要で、患者を選択するだけで貧血に関連した情報を一画面で確認できるようにしています。

電子カルテを起動した状態からであってもシームレスに透析支援システムを起動させることができるようにしておりますので、この場合は患者選択の必要もありません。

6. データの一次利用・二次利用

医療情報の活用は大きく“一次利用”と“二次利用”の2つに分けられます。
一次利用とは患者の診療等によって得られた情報を本人の治療のために使用するなど取得した本来の目的で使用することであり、二次利用とは取得した本来の目的以外の目的で使用することです。例えば研究や学会発表、自院の医業経営分析などがこれに当たります。

当グループ病院ではデータの一次利用の一環として、定期採血翌日に透析クールごとに貧血指標をまとめた一覧表を出力し主治医へ情報提供を行っています。複数の患者データをリスト表示していることから視認性が非常に高く、もしデータ推移に異常があればいち早く気付くことができるため医師の業務効率向上に役立っているものと思います。


二次利用としてこれまでに、ESA製剤のバイオシミラー、バイオセイムへの切り替えや、新規リン吸着薬の採用に伴う臨床データの推移確認を始め、薬価、使用量データを基に医業経営資料としての情報をまとめるなどしてきました。以下に学会発表したスライドの一例を掲載していますが、従来なら時間的に非常に困難を極めたデータ収集を非常に短時間で行うことが可能となり、考察に十分な時間を割くことで、データをより高い精度で的確に把握することができるようになりました。

7. 貧血指標におけるモニタリングの可能性

さてここまで電子カルテの課題も含めて貧血指標データの活用についてお話してきましたが、最後に貧血指標とモニタリングの可能性について触れておきたいと思います。

近年、一部の透析監視装置で専用回路を必要とせず装置単体でHt測定が可能になり、特別な操作もなく毎透析中のHt変動を当たり前のように見ることができるようになってきました。
簡単に測定可能となりましたが、当然その精度は確かであるかの検討も、当グループでは毛細管法によるHt値と比較しややバラつきはあるものの決定係数0.87と、スクリーニングとしての役割に期待が持てる結果が得られています。

当グループではそのデータを毎透析ごとに自動抽出できるよう環境構築し現在データを蓄積しているところです。本格的なデータ活用はこれからですが、通常採血では得られない、治療中の除水に伴うHt変動は、脳や心疾患など様々な病態を考慮した貧血管理や、近年臨床工学技士の主要な業務として定着しつつあるVA管理において活用できる可能性があるのではないでしょうか?

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