透析業務説明|Explanation of dialysis work

身体組成分析装置(MLT-50)による基礎体重管理

【はじめに】

透析における基礎体重設定は、透析治療において重要な治療方針の一つです。基礎体重決定要因として

1. 血圧の安定

2. 浮腫、体腔液貯留、心不全等の体内水分貯留が過剰な症状がない

3. 心胸比

4. HANP

5. 下大静脈径

6. 血液濃縮率(PWI)

7. BVDR(クリットラインなどを利用した循環血液量の変化)

8. INBODY(電気インピーダンス法)

などがあげられます。人間の身体組成は、変化していきます。透析患者も例外ではありません。当院では基礎体重管理を、多周波インピーダンス法により間接的に身体組成変化を計測して判断材料の一つとしています。多周波インピーダンス法による身体組成変化をどのように管理しているか、成果がみられたか御紹介いたします。

【多周波インピーダンス法とは】

ここで、「インピーダンス」とは電流の流れにくさのこと言います。生体はそれぞれ固有の生体インピーダンスを持っています。電流は水分を多く含む筋肉組織などでは流れやすく水分を殆ど含まない脂肪組織では流れにくい性質を持つことから、生体インピーダンスは身体組成を反映すると考えられています。この原理を応用して脂肪や除脂肪、水分と言った身体組成を分析する方法を生体電気インピーダンス法と言います。

図1

図2

最近は電気屋さんなどで体脂肪計が販売されているのをよく目にしますがこれらの製品は生体電気インピーダンス法によるものがほとんどです。
当院では、多周波インピーダンス法による身体組成分析装置は、MLT-50(SKメディカル電子株式会社製 以下MLT-50)を用いています。(図3)

独自で開発したシステムを利用し効率化を図り、チーム医療の一員として医師、看護師など他職種と測定結果の報告やカンファレンスなどを通じ、情報の共有化に努め、安全な透析医療を提供できるよう連携を深めました。今回我々のMLT-50による適正体重への取り組みは透析医療における臨床工学技士の役割として重要であると考えます。

【測   定】

MLT-50にて、定期的に月に一度、週末透析後に手足に電極をつけて測定を行います。独自に開発したMLT-50管理システムを用いて、データ蓄積します。臨床症状に変化が認められる場合も測定を施行します。また、基礎体重の検討が必要な患者には毎時間MLT-50測定、同時にクリットラインモニターも併用し循環血漿量の確認を行いながら基礎体重の評価・検討をします。実際の測定風景です。(図4)

【MLT-50測定のワークフロー】

定期測定が終わりましたら測定結果をデータ出力し、透析室に提出する前に臨床工学部にてディスカッションを行い、その情報を元に医師、看護師とのカンファレンスにて評価報告を検討します。(図5)が出力されるレポートです。そこで検討必要な患者や基礎体重変更された患者を適正かどうか再度確認するため毎時間MLT-50測定やクリットラインモニターなどを用いて検討を行うケースもあり、その結果を再び臨床工学部にて検討し医師や看護師と再度情報交換を行います。このように不適切な体重設定のされた可能性のある患者を集中的に検討します。また臨床工学技士が見落とす、あるいは気がつかないケースも考えられ、医師や看護師サイドから測定依頼があった場合には臨時に測定しワークフローに乗せて管理するケースもあります。(図6)

図6

【臨床工学部にて評価】

MLT-50測定結果と検査データ、画像情報を元にフロア担当の臨床工学技士、施設担当者の臨床工学技士を中心として評価・検討を行っているところです。(図7)

【医師・看護師とカンファレンス】

臨床工学部にて評価した結果をフロア担当の臨床工学技士がカンファレンスにて医師、看護師へ評価報告を行い、情報交換、検討を行っているところです。(図8)

【症例1】



グラフが%TBWと体重の推移になります。2008/04/12の結果では%TBW65.8%、臨床症状も安定し透析を施行していましたが、半年後の測定結果より%TBWの上昇が見られ、基礎体重のコントロールが必要と判断されます。

 毎時間MLT-50測定した結果となります。この結果より安定して透析が維持されていた%TBW66%を目標と定め、体重をコントロールします。クリットライン、MLT-50測定結果、臨床症状等も含めて検討を行い、基礎体重を減少させることにより、%TBWの低下、BVも濃縮に差がみられました。最終的に基礎体重2.2Kg減少、%TBW66.0%まで低下しました。(図11)、(図12)

【症例2】

心不全、狭心症精査にて入院していましたが、退院後基礎体重4.2kg低下するも%ECF変化がなかった症例です。(図13)

【症例3】

透析導入後、体重が上昇したが%ECF変化はあまり変化が見られなかった症例です。透析導入後における体重が増加してくる症例はよくみられます。(図14)

【症例4】



食欲不振のためやせの傾向が急激に進んでいる症例です。%ECF、心胸比も上昇しています。(図15)

【最後に】

MLT-50導入による基礎体重管理から、血圧関係の内服薬使用量の減量が確認されました。(図16)



MLT-50測定は、迅速な情報提供が可能となり、医師、看護師など他職種と測定結果の報告やカンファレンスなどを通じて情報の共有化が図れます。また、さまざま要因で変化する身体組成を的確にとらえ、安全な透析医療を提供できるよう連携を深めた結果、チーム医療の一員として重要性が増します。 臨床工学技士として体水分量だけでなく血圧に関する薬剤、栄養状態、検査データ、自宅における生活状況など様々な視野から透析患者を考察することで、臨床における知識、経験を高めることにつながりました。(図17)

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